新しい時代の教員養成を考える上では、教師の適応的熟達化(Lin et al., 2005)が重要であるといわれています。多様な子どもたちが学ぶようになり、どのような状況の子どもたちにも適切に教育することができる専門的職業人としての教師が求められていると言えます。しかし、学校が複雑化するなかで、教育現場では遮蔽された教育現場の規律や人間関係、子どもたちの実態に直面した新任教員がリアリティショックを生じ、数年の間に離職する問題もあります(e.g. Hebert et al., 2001; Hong, 2010)。教師の熟達化を、内容と教授方法についての知識(PCK: Pedagogical Content Knowledge)をどう向上していくかという側面(e.g. 吉崎, 1987; Darling-Hammond & Bransford, 2005)だけでなく、複雑な問題が数多く発生する教育現場に教師が適応して、さまざまな困難に対応できるようにすることが大切になってきます。

そこで大切になるのは、教師の適応的な職業社会化(Zeichner & Gore, 1990)です。というのも、大学の教師教育と現場での仕事との間にギャップがあることが指摘されています (Zeichner, 2010)。それに対して、長期間教育実習を行い経験を積むという方策が考えられ、国際的な流れとなっていますが、実習校における体験に拠るところが多く、成功体験も失敗体験もあること、教育実習中のメンターによる指導がPCKの側面に焦点化されることが多いこと(Herbert et al., 2001)などから、十分な職業社会化に結実することができていないという現状があります。

そこで専修大学望月研究室では、SNS(Social Networking Service)を活用して、教育実習の事前事後指導の過程において、実習生が実習中の体験報告に基づいた対話を行う場を提供する授業実践を行っています。この授業実践を通して、実習中に学んだ実践的知識の相互吟味のみならず、大学では体験的に学べない子ども・上司とのコミュニケーションの仕方や、問題状況への対応に関する情報交換を行うことで、さまざまな学校があることを学び、職業社会化につなげる授業実践を行っています。2022年からはGoogle Chatをこの目的に活用しています。

Publications